
K:現在は不況下に80’sがきたっていう、セミフレッドみたいなことになっちゃってるわけですよね。セミフレッドで生温くなるのか、あるいは両極やコインの裏表は同じだという格好で、強く統合されるのか解りませんが、トウキョウコレクションなんか見てると後者ですけれども。だから興味ありますよね。あの当時80’sが発狂した50’sみたいだったのは、50年代と80年代は景気がよかった繋がりというか。そういったものも21世紀に入ってバラバラになった。
I:マイケル・ジャクソンの死とかそういうのも関係あると思うけど、時系列的な意味での80年代的な「生」が完全に死んじゃったからじゃないですか? 喪失感とノスタルジー。
K:先日、僕生まれて始めて、『なんとなくクリスタル』(田中康夫著)っていう小説を読んだんですよ。
I:80年代の大ベストセラーですね(笑)。
K:ページを開くと、まず<1980年6月東京>と書いてあるんですよ。あっ、いよいよこれで80年代が始まったって、到来を告げているんですけど、今読んでも衝撃力がすごくて。今、芥川賞だ、文芸新人賞だといったところで、片方のページがストーリーで、もう片方のページがブランドの解説っていう本は出せない。相当な破壊力でこじ開けたなっていう。あれは今こそみんな読むべきだと思う。脚注が442もあるんですよ。そのうち一種の考現学として興味深いのは、ケーキ屋が見事にないですね。田中康夫さんはケーキが大好きで、当時のイケてるケーキ屋が50軒近く出てるんですが、僕が全部チェックしたところ、ほとんど残ってないですね。
I:ひどいね、それは。
K:名前を変えてるかもしれないけど。料理屋とブランド、エルメスとかサンローランとかいうのは大分残っている。だけどケーキ屋はない。スイーツにはでっかい断層があるんですね。レストランは残ってるものは残ってるんだけど、あんまりあの本に高級レストランは出てこないんですよ、女子大生の話だから。442ある脚注の、1番は何でしょうっていうクイズを出したら、誰も答えられないですよ。本当に。漠然と「ボートハウス」かな、「ホブソンズ」とかかなと思うじゃないですか? ところが、あの『なんとなくクリスタル』の脚注の1番は「ターンテーブル」なんですよ。びっくりするでしょ(笑)。最初のシーンが、主人公の由利が朝起きて、何聴こうかなってターンテーブルにレコードをのせるところから始まるんですよ。それで、ターンテーブルなんて言葉、当時、文芸なんかを読む人は知らなかった。LPプレーヤーとかステレオセットって言ってたから。
I:CDは何年ですか?
K:82年ですけど、一般的な定着は84年です。
I:レコードだけだった時代ですね。
K:まだレコードの時代ですし、当たり前だけど、80年の小説なんで、出てくる音楽は全部70年代のものなんですよ(笑)。面白いからYouTubeで出てきた順にプレイリスト作ったんだけど(笑)。これは趣深いです。まだ誰もターンテーブルって言ってない頃だと思いますよ。1番からターンテーブルなのかよって度肝を抜かれたんですよ。そりゃクラブカルチャーがくるわなっていう。今あれ読んで、ちょっとした(アルフレッド・)ジャリのような前衛的な実験小説みたいに読めちゃうっていうか。Numeroにも康夫ちゃん出しましょうよ(笑)。政治の話抜きで。




